100年の時を超え、自由学園 明日館が池袋の街に語り継ぐもの

池袋駅から徒歩5分。静かな街並みを歩いた先に見つかったのは、穏やかな時間が流れる安らぎの空間でした。

ここは、1921年に創立された「自由学園 明日館（みょうにちかん）」。日本人女性初の新聞記者だった羽仁もと子（はにもとこ）・吉一夫妻が開校し、当時の学校令によらない自由教育を採用した学園として、26名の女子生徒とともにその歴史をスタートさせました。100年以上前に建設された「明日館」は、結婚式会場やコンサートホール、撮影ロケ地や会議室などの広い用途で「使いながら保存する文化財」としての生命をつなぎ続けています。

巨匠、フランク・ロイド・ライトによる建築がそのまま現代へ

かの有名な帝国ホテルの建築を手がけたアメリカの建築家、フランク・ロイド・ライトと、その弟子遠藤新の設計により生み出されたのが、この明日館です。水平線を意識した横にまっすぐに伸びる構成や、窓ガラスなどでも視認できる幾何学的な装飾など、建築の巨匠ライトのが、初期の住宅作品で用いた特徴が至る所に散りばめられています。

▲中央に位置するホール内部。幾何学的なデザインの大きな窓枠が印象的です

ライトが明日館の設計を羽仁夫妻から受けたのは、まさに帝国ホテルの設計に携わっていた最中だったそう。多忙な状況ではあったものの、夫妻が掲げる女性のための新たな教育理念に心から共感したため、二人の申し入れを快諾したといわれています。

建物の構造に込められた、生徒主体の教育理念

▲自由学園のモットー「思想しつつ、生活しつつ、祈りつつ」を表現した彫刻は、1931年の創立10周年を記念して当時の生徒が制作したもの

権威主義思想が主流だった当時の学校は、中心に校長室や職員室など、教師の使用する場所を配置する構造が一般的でした。しかし明日館は、生徒たちが使用するホールや食堂を学校の中心に据えています。羽仁もと子がキリスト教を信仰していたことも影響し、神の下に教師も生徒も皆平等であるという思想が、学校建築にも反映されているのです。

100年前の女生徒たちが営んだ生活の名残

館内を散策していると、当時の生徒が生活していた名残が随所で感じられます。

例えばこの教室。途中で床板の色や質感が異なっているのは、保存を目的とした修理工事の際に、傷みの激しい部材の代わりに手前の床板が新しいものに付け替えられたから。奥の床板は1世紀以上もの間、今も現役で明日館を下支えしているのです。

中二階へ上がると展開する食堂。この場所も増築を経ながらも、開校していた当時の姿のままで保存されていました。天井にある照明の吊り具は、生徒が集まり食事をする空間に寂しさを感じたライトが設計したそう。現在に至っても、見学者が足を休める喫茶スペースとして憩いの空間を生み出し続けています。

▲館内6箇所にある暖炉は、創立当初から残っているもの。今でも現役だそうです。

空襲や災害を乗り越えた奇跡。愛情により守られる明日館の生命

▲道路を挟んだ向かいにある講堂は、映画やドラマの撮影、結婚式の会場にも使用されています。

かつて太平洋戦争の空襲で、明日館や一部地域を除く池袋一体は戦火に見舞われ、焼け野原になってしまったといわれています。奇跡的な立地や近隣住民の消火活動がなければ、当時の生徒たちの息吹が感じられるこの学舎に、私たちは親しむことができなかったかもしれません。

「動態保存という形を取った背景には、保存していくための財源確保の目的もありますが、それ以上に建物としての意義を生かし続けたいという願いがありました」広報担当の岡本さんが、明日館保存の根底にある想いを教えてくれました。

「保存に向け、この先100年も同じ姿で明日館が残り続けることを目指した保存修理工事がなされました。使用されることで受ける傷や劣化の課題もありますが、それ以上に訪れた方々が持ち寄ってくれるエネルギーが、明日館の生命をつないでくださっていると感じます。ぜひお近くにいらした際には足を運んで、自分だけのお気に入りの場所を明日館で見つけていただきたいです」

100年の時を超え、「自由学園 明日館」が私たちに語り継ぐもの。それは建物が持つ歴史的な価値と、たくさんの人々から受け取ってきた深い愛情なのかもしれません。

自由学園 明日館
電話：03-3971-7535
住所：東京都豊島区西池袋2丁目31-3
アクセス：
池袋駅メトロポリタン口より徒歩5分
HP：https://jiyu.jp/
SNS：https://www.instagram.com/jiyugakuenmyonichikan/

＊営業時間や定休日についての詳細は、上記のリンク先にてご確認ください。