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2025.07.10

おしどり夫婦が生んだ、日本の“美味しいアート”に心奪われる

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おしどり夫婦が生んだ、日本の“美味しいアート”に心奪われる

料理にまつわる物なら何でも揃う、「リソルポシュテル東京浅草」至近の「かっぱ橋道具街」。この中心部に店を構える「元祖食品サンプル屋」では、連日多くの観光客が食品サンプルの購入や製作体験を楽しんでいます。

つややかな霜降りが美しい大トロの握り寿司に、サクサクの衣をまとった海老の天ぷら。レタスのみずみずしさや半熟チーズ、炒り卵のふんわり感など、食材の質感を見事に表現した、まるでアートのようなアレンジトースト。店内にずらりと並ぶのは、眺めているだけで食欲がそそられる料理の数々。すべて蝋(ろう)や樹脂で作られていることを忘れてしまいそうなほど、美しく精巧な仕上がりです。

「食品サンプルは日本独自の文化。海外のお客様は、あまりのリアルさに『Amazing!』と驚いていますね。」そう話すのは、店長を務める佐藤香央里(さとう かおり)さん。

店を運営する株式会社岩崎は、昭和初期に国内で初めて食品サンプルを事業化したパイオニア。今や日本の観光ガイドブックにも掲載され、和文化の象徴として認知されるようになった食品サンプルですが、その歴史の背景には、二人三脚で開発に心血を注いだ、ある夫婦の物語がありました。

きっかけは、水面に浮かぶ“蝋の花”

岩崎の創業者、岩崎瀧三(いわさき たきぞう)氏

岩崎の創業者、岩崎瀧三(いわさき たきぞう)氏

日本で最初に食品サンプルが登場したのは、大正末期。当時は料理模型と呼ばれ、色や形も簡素だったものの、岩崎の創業者、岩崎瀧三(いわさき たきぞう)氏は一瞬で魅了されます。

幼い頃、ろうそくの蝋が溶けて水面に落ちた際、白い花のようにふわりと広がる様子を目にして、釘付けになったことを思い出した瀧三氏。蝋の特性を食品サンプルに応用しようと考え、36歳のとき、食品サンプル製作に着手します。

勤務先の弁当屋から帰宅した後、夜中の2時過ぎまでひたすら研究に励む日々。瀧三氏の成功を信じ、そばで支え続けたのが、妻のすゞ氏でした。蝋の扱いは難しく、割れたり溶けたりと失敗続きでしたが、二人の間には笑い声が絶えなかったそう。

蝋のもろさに苦戦していた瀧三氏に、紙で裏打ちすることを提案したのもすゞ氏でした。このアイデアが奏功したとき、瀧三氏は「すゞ、勲章もんやぞ。」と大喜びしたといいます。

試作品のモデルは、妻が焼いたオムレツ

食品サンプルの試作品第一号となった「記念オム」

食品サンプルの試作品第一号となった「記念オム」

1932(昭和7)年、夫妻はついに試作品第一号を完成させます。それは、すゞ氏が焼いたオムレツをモデルにした「記念オム」。その完成度の高さに、すゞ氏も「どっちが本物かわからんくらい……。」と圧倒されたそうです。

「実は、すゞ氏のオムレツは卵にシワが寄り、決して出来がよいとは言えなかったそうです。」と明かすのは、「元祖食品サンプル屋」の広報を務める羽土綾奈(はど あやな)さん。瀧三氏がシワまで忠実に再現したことで、かえって本物らしさが増したのだといいます。

記念オムを前に、すゞ氏と二人で杯を交わしたという瀧三氏。その後、試作品がデパートの食堂で採用されたことが追い風となり、食品サンプルは瞬く間に全国へと広がっていきました。

頑丈で高い再現性を誇る岩崎の商品は、戦後の飲食業界の発展に大きく寄与。2011年には料理の聖地、合羽橋に「元祖食品サンプル屋」の一号店をオープンさせました。

佐藤さんは「日本は全国各地に固有の食文化があって、四季折々の料理を楽しむ国。食文化が豊かだからこそ、食品サンプルが浸透したのかもしれません。」と、微笑みます。

本物より本物らしく。受け継がれる信条

揚げ物の質感や焦げ具合など、細部の美しさはものづくりの技術が高い日本ならでは

揚げ物の質感や焦げ具合など、細部の美しさはものづくりの技術が高い日本ならでは

お土産の一番人気は、本物そっくりなにぎり寿司のマグネット

お土産の一番人気は、本物そっくりなにぎり寿司のマグネット

本物よりも本物らしく、料理の魅力を表現する―。そんな瀧三氏の心意気が脈々と受け継がれ、岩崎の食品サンプルは業界内でも最高峰のクオリティを誇ります。

型取りには、飲食店から取り寄せた本物の料理を使用。それが叶わない揚げ物は、何日もかけて発泡スチロールを削り、形を作っていくそう。ハンバーグや焼き魚など、火を通す料理は食材の縮みや反りまで計算し、ミリ単位でサイズを調整。焦げ具合は複数の着色料を混ぜ合わせ、納得する色味になるまで妥協しません。

佐藤さんは「外国の方は、料理の模型というより芸術作品として捉えているようですよ。」と、指摘します。食品サンプルを鑑賞するためだけに合羽橋を訪れる観光客も増えているのだそう。

「合羽橋は(岩崎と)関わりの深い街。商店街一体となって、合羽橋を盛り上げられていることが嬉しいです。」

ショーウインドーの外へ。笑顔を作り出すツールへと進化

「レタスと天ぷらの製作体験が好評です。」と語る佐藤さん

「レタスと天ぷらの製作体験が好評です。」と語る佐藤さん

記念オムの誕生から93年。「元祖食品サンプル屋」は「食品サンプルをショーウインドーの外へ開放し、驚きと感動を提供すること」をミッションに掲げます。

開店当初から実施している製作体験もそのひとつです。参加者の国籍や年齢層はさまざまですが、佐藤さんはとりわけ大人が童心に返ってはしゃぐ姿に胸を打たれるそう。

「大きな声で驚いたり、仲間と笑い合ったりされる姿を見ると嬉しいですね。大人が心からはしゃぐことって、あんまりないじゃないですか。」食品サンプルが人々の笑顔を生み出していることに、大きなやりがいを感じるといいます。

お肉のバッグや「牛Rコード」など、ユニークな商品を次々と開発

お肉のバッグや「牛Rコード」など、ユニークな商品を次々と開発

近年は、キーホルダーやマグネットなどの定番商品以外にも、遊び心満点の商品を次々に企画。ピザの帽子やお肉のハンドバッグはSNSで話題となり、フォトスポット化しています。牛肉の中にQRコードを埋め込んだ「牛Rコード」は、実際に読み取ることが可能だというから驚きです。

「言葉が通じなくても、みんなが思わず笑顔になってしまう。そんなお店にしたいですね。」

一組のおしどり夫婦が世に送り出した食品サンプル。進化を続ける日本の“美味しいアート”は、世界中の人々の心をつかんで離しません。


元祖食品サンプル屋 合羽橋店 
電話:0120-17-1839(フリーダイヤル) 
住所:東京都台東区西浅草3-7-6*合羽橋交差点近く 
アクセス:つくばエクスプレス「浅草駅」 A2出口徒歩5分 
*東武線および地下鉄の「浅草駅」と異なります 
東京メトロ銀座線「田原町駅」3番出口徒歩12分
東京メトロ日比谷線「入谷駅」1番出口徒歩15分 
HP:https://www.ganso-sample.com/
SNS:https://www.instagram.com/ganso_sample/
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*営業時間や定休日についての詳細は上記のリンク先にてご確認ください。