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2024.08.15

いつの時代にも、変わらず寄り添いつづける革製品を「くさかカバン店」

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いつの時代にも、変わらず寄り添いつづける革製品を「くさかカバン店」

北海道のなかでも古い歴史をもつ商店街の一つ、「狸小路(たぬきこうじ)商店街」。日々多くの人が行き交う1丁目〜7丁目のにぎやかな通りを抜けさらに奥へ進むと、どこかゆったりとした雰囲気を感じさせてくれる「8丁目」にたどり着きます。

その一角にある、閑静な通りに溶けこんだ「くさかカバン店」は、代表の日下功二(くさか・こうじ)さんと妻の弘子(ひろこ)さんが営む、“長く愛用できるように”と心を込めて作られた上質な鞄や革小物が並ぶお店。

日下さんを訪ね、扉の向こう側に秘められた魅力について、じっくりと伺いました。

ところどころに置かれる日下さんのコレクション(非売品)が、空間をより味わい深いものに

ところどころに置かれる日下さんのコレクション(非売品)が、空間をより味わい深いものに

温かみのある木製の扉を開けると、出迎えてくれたのは一目で細やかな仕事ぶりが伝わる上品で美しい革製品・革小物たち。店内には、日下さんが手がけるブランド「日下公司(クサカコウシ)」を中心に、札幌に縁のある作家・職人が作るものが並びます。

この縁のある作家・職人というのは、日下さんが開く「かばん教室」で製作を学んだ生徒さんでもあるとか。「自分たちが好きで、良いと思えるもの」「魅力を伝えたいと思うもの」が一つひとつ丁寧に配置された、こだわりあふれた空間です。

むずかしい素材のおもしろさに惹かれて

最後まで言葉を選びながら確かめるように語ってくれた代表の日下さん

最後まで言葉を選びながら確かめるように語ってくれた代表の日下さん

「”おもしろい素材だな”と思いまして」

”デザインを学びたい”と進んだ大学の人文学部内にある芸術学科(東京都内)で、”現代美術”にぐっと傾倒したのだという日下さん。

オブジェづくりやインスタレーション(空間全体を使った現代美術の表現方法)に取り組むなか、オブジェの一部に革を使用したことが“革”という素材に目を向けるきっかけになったのだそう。

また、時期を同じくしてアルバイトのために滞在した軽井沢で、偶然にも革でものづくりをされているお店と出会います。そこで“自由度の高いものづくり”を目の当たりにしたことも「興味が湧くきっかけとなった」と、当時を思い起こしてくれました。

工房が併設されており、作業風景が見られることも。立体的なものを作るのに適した「腕ミシン」は数十年前に製造されたもの。足踏み式で、一目ごとに丁寧に縫えることや糸の締まりがよいことも魅力

工房が併設されており、作業風景が見られることも。立体的なものを作るのに適した「腕ミシン」は数十年前に製造されたもの。足踏み式で、一目ごとに丁寧に縫えることや糸の締まりがよいことも魅力

「布などとちがい切った部分がほつれることがないため、最初は“扱いやすい”と感じていたんです。ですが、知識不足・技術不足で自分の思うようには革が応えてくれなくて......。素材について知れば知るほど、“難しいけれど、逆におもしろい”と思うようになりましたね」

使いつづけるほどに変化していく革の性質に惚れこみ、のめりこんでいった日下さん。もともと鞄が好きだったこともあり“自分で作れないか”との発想にいたるのは、自然な成り行きでした。

“古いもの”を手本に、学んだ技術

「フィッシングバッグ(釣り用)」をイメージし、普段づかいができるようアレンジを加えた「ショルダーバッグ」。ロングセラーの一つで、サイズや仕様のアップデートを繰り返し作りつづけている

「フィッシングバッグ(釣り用)」をイメージし、普段づかいができるようアレンジを加えた「ショルダーバッグ」。ロングセラーの一つで、サイズや仕様のアップデートを繰り返し作りつづけている

当時は、そもそも鞄の作り方を教えている場所に出会うことが難しかったのだといいます。そのため、近しい分野である靴の職業訓練校に通っていた時期もあったのだそう。

「鞄のなかでも、とくにイギリスにあるような古いトラディショナルな感じの形が好みですね。ただ、どこかで鞄について習ったり、修行したりということではなかったので、言ってみれば“古いものが先生”だったんです」と、日下さん。

あちこちから古い革製品を見つけてきては解体し、構造を学んでいく......。そうしたことを繰り返しながら、独学で知識と技術を身につけていきました。

“自分が使いたいと思えるものを作ること”、そして、“自分の好きなあの人に、こういうものを持ってもらえたら素敵だろうな”という、大切な方へ寄せる想い。そうした鞄作りへの根底にある考えは、今でも変わらず持ちつづけているといいます。

“もっと近くで見たい”の声で移転を決意

「ファスナーキーケース(写真)」。ほかにも名刺入れや小銭入れなど、色のバリエーションに富んだ革小物が並ぶ

「ファスナーキーケース(写真)」。ほかにも名刺入れや小銭入れなど、色のバリエーションに富んだ革小物が並ぶ

“そのまま東京で活動を”との考えもありましたが、さまざまな事情で出身地である北海道へ戻ることに。1995(平成7)年、札幌近郊のまちで活動を本格的にスタートさせました。

展示会の開催や札幌のギャラリーでの展示など、少しずつお客さまの目に触れる機会や革製品の価値を直接伝えられる場を設けていき、会に足を運んでくれた方からのご縁で廃校を活用できるようになるなど、活動の幅にも着実に広がりが。

そんななか、札幌方面からわざわざ訪ねてくれる方からの「もっと札幌で見られると良いのに......」との声も多くあがったことで、拠点を札幌へ。移転を経て、現在のお店をかまえるに至りました。

革の断面(コバ)を磨く工程。やすりで整えたあとに染料で色を付け、布海苔(ふのり)を塗り磨きあげる。最後に蜜蝋(みつろう)を流しこみ、専用の道具で熱を加え焼き締めることで滑らかさを実現

革の断面(コバ)を磨く工程。やすりで整えたあとに染料で色を付け、布海苔(ふのり)を塗り磨きあげる。最後に蜜蝋(みつろう)を流しこみ、専用の道具で熱を加え焼き締めることで滑らかさを実現

店内に併設された工房では、伝統的な技術や手法をベースに、日下さん、妻の弘子さんそれぞれが一つのアイテムを作り上げるところまで責任をもって取り組むのだそう。

「“あそこはこうしておくべきだったよな”という引っかかりがあると、たとえ製品に問題がなく他の方の目にはわからなくても、自分だけは知っている。そういう自分にとって心残りがあるようなものづくりは、できるだけしたくないんです」

一つひとつの作業を丁寧に、緻密に積みあげていくことで仕立てられる「日下公司」の革製品たち。その端々にまで意識を向けられ実現した繊細で美しいラインやフォルムには、日下さんの職人としての信念や誠実さが宿ります。

自立させることのできる“木彫り熊”の革版「革のこぐま くーちゃん(左)」「革の白くま(右)」。くーちゃんは、黒・チョコ・茶・赤・オリーバなどさまざまな色から選ぶことができる

自立させることのできる“木彫り熊”の革版「革のこぐま くーちゃん(左)」「革の白くま(右)」。くーちゃんは、黒・チョコ・茶・赤・オリーバなどさまざまな色から選ぶことができる

2019年からは、“素朴なライフスタイルのお手本”として、生活に根ざした“ちょっと楽しいなにか”を提案するブランド「KOROBOTCH(コロボッチ)」を展開。

なかでも、北海道のお土産として多くの方が思い浮かべる“木彫り熊”の革版「革のこぐま くーちゃん」「革の白くま」など、贈りものやお土産に最適な革雑貨が目を惹きます。

水で濡らし、自分の思うフォルムに形作ることができる新たなお土産のカタチ。目が合うたびにきゅんとしてしまう愛らしさが、慌ただしい毎日のなかに癒しをもたらしてくれそうです。

同じ色のこぐまを並べたり、色違いで置いたり組み合わせを楽しむことができる

同じ色のこぐまを並べたり、色違いで置いたり組み合わせを楽しむことができる

“良い”と信じられるものを届けていく

端材を活かし「SAPPORO」の文字が刻印された革は、来店された方へのプレゼント。旅で訪れた方が喜んで持ち帰るという

端材を活かし「SAPPORO」の文字が刻印された革は、来店された方へのプレゼント。旅で訪れた方が喜んで持ち帰るという

「自分のものづくりとして歩みはじめてから30年近く経ちますが、初期の頃から長い年月をかけていまだに使ってくださっている方もいるので、”長く使っていただく”という最初にイメージしていたことはクリアできているのかな」

「革のカチッとしたバッグなどは重いですし、世の中にはもっと軽くてリーズナブルなものがたくさんありますよね。それでも、やっぱりこの革製品を使えば”自分のモチベーションが上がるな””自分らしさが出るな”というものを、これからも作りつづけたいんです」

アップデートはしながらも、自分たちが“良い”と信じられるものを望む方々に向けてまっすぐに届けていく。「くさかカバン店」の扉の向こう側には、時代が移ろっても変わることのない、素材への愛着と、使う人に寄り添ったものづくりがありました。


くさかカバン店(日下公司) 
住所:北海道札幌市中央区南3条西8丁目 7−3 
アクセス:地下鉄南北線・東西線・東豊線「大通駅」 より徒歩10分程度  
     地下鉄南北線「すすきの駅」より徒歩10分程度 
HP: https://kusaka.net/ 
SNS: https://www.instagram.com/kusakakaban10/ 
*営業時間や定休日についての詳細は、上記のリンク先にてご確認ください。