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2025.07.10
小田急とJRが交差する町田駅周辺には、多くの飲食店や居酒屋がひしめきます。そんな喧騒を抜け、歩いて5分足らず。
閑静な住宅街の一角に、歴史を感じさせる門がまえが現れます。和風庭園を眺めながら、こだわりの十割板蕎麦が味わえる「蕎麦処 くに作」です。
初代店主の康子さんが毎朝手入れをする庭
店主を務めるのは、西山桃子(にしやま ももこ)さん(旧姓:石川)。母である石川康子(いしかわ やすこ)さんが11年前に開いた店を、2021年に2代目として引き継ぎました。お店があるこの土地は、代々石川家が受け継いできた場所。西山さんも、敷地内の住居で生まれ育ちました。
「一緒に住んでいた祖母が亡くなった時、残った母がこの土地をどう活かそうかと考えた時にひらめいたのが、“蕎麦屋”だったんです。」
「くに作」の名は、西山さんの祖父、石川 国作(いしかわ くにさく)さんに由来します。東急電鉄に勤め、東急田園都市線やJR特急「踊り子」の開通に尽力した方で、町田エリアの発展にも貢献しました。国作さんのもとにはいつも来客があり、にぎやかだったそう。
「多くの人に慕われた祖父は、私が10歳の頃に亡くなりました。この場所を再び“人が集う空間にしたい”という想いが、母にはあったのかもしれません。」
水を受けてきらきらと光り輝く、茹でたての蕎麦
「くに作」の初代、康子さんは翻訳業のほか、免疫学で博士号を取得するなど、多才な経歴の持ち主。栄養学にも精通していた康子さんが選んだのは、日本の伝統食であり、健康にもよい「蕎麦」でした。
蕎麦粉は、蕎麦の名産地として知られる山形県、遊佐(ゆざ)町産のものを使用することに。日本海を望む名峰、鳥海山(ちょうかいさん)の雪解け水で育った蕎麦の実の香りと風味に心を奪われ、迷わず決めたといいます。
「山形には“板蕎麦”という文化があって、板に盛った蕎麦を皆で囲んで食べるんです。一緒に食べた人とのご縁が“板に付く”ように──そんな思いを込めて、山形の板蕎麦を提供しています。」
人気の「天ぷら蕎麦」
そんな「くに作」が提供するのは、つなぎを使わない「十割蕎麦」。生地がまとまりにくく、茹でるとくっつきやすいため扱いが難しい製法ですが、その分、蕎麦本来の香りと風味を味わうことができます。蕎麦を茹で、冷水で締めた直後の“水が光る”瞬間こそが最高の食べ頃だといいます。
つけ汁は、昆布と鰹節で丁寧にとった出汁をベースに2種類の味を用意。一つは素材の旨味を活かしたシンプルなもの。もう一つは、砕いたアーモンドとくるみを加えた康子さん考案のオリジナル。ビタミン豊富なナッツが蕎麦に絡み、食感も楽しい一品です。
人気の天ぷらには、定番の海老やかぼちゃに加え、西山さんが2代目となってから提供を開始した「季節の天ぷら」もあります。四季折々で表情を変える庭を眺めながら、その時々の旬のものを味わってほしい──。そんな思いが食材選びにも込められています。
西山さんがお店を引き継いだ時は、コロナ禍のさなか。客足が戻らず苦戦しながらも、徐々に体制を整えてきました。今では年配層から若年層まで、多くの人が足を運びます。
親子3世代での来店や、平日に一人でふらりと訪れる会社員、東京では珍しい「板蕎麦」を求めて遠方から足を運ぶ人もいるそう。お庭のデッキ席はペット連れも可能で、愛犬と一緒に蕎麦を楽しむお客様も増えているとのこと。
「昨年は、岸田文雄元首相が町田の小学校視察の際にご来店くださって。当時の一国の総理に足を運んでもらい『美味しい。』と喜んでもらえたのは、店主として胸を張れる出来事でした。」
「駐車場やマンションにするのは簡単かもしれないけれど、このお店と庭をこれからも守り続けていくことが私の使命です。」と語る西山さん。
「森野」という地名の通り、かつてこの地には豊かな緑が広がっていました。
街の開発が進んでも、静かに自然を感じられる空間と香り高い蕎麦が楽しめる場所を──。受け継がれた思いとともに、「くに作」は今日もご縁を結び続けています。