2024.09.15
名古屋の喧騒から少し離れた場所に位置する有松は、江戸時代から続く絞り染めの伝統が息づく風情ある町です。名古屋市の南東部に位置し、うだつの上がる街並みが広がるこのエリアは、名古屋市の町並み保存指定第一号として、全国町並み保存連盟の発祥地でもあり、200年以上の歴史を持つ貴重な文化財です。
有松の中心にある「有松・鳴海絞り会館」では、400年以上にわたる絞り染めの歴史と技術を体感できます。ここでは、伝統技法の展示や実演、体験ワークショップを通じて、有松絞りの魅力を存分に楽しむことができます。有松の町並みを歩けば、古き良き時代の面影を残す町屋が点在し、まるでタイムスリップしたかのような感覚を味わうことができます。
有松絞りの歴史は、江戸時代の初め、徳川家康が江戸に幕府を開いてまもない1608年に遡ります。当時の有松地域は人家の無い荒地でしたが、東海道を行き交う人々のために新しい集落として有松が開かれました。しかし、有松は丘陵地帯で稲作には不適であったため、住民たちは別の生計手段を模索する必要がありました。そこで、有松に住んでいた竹田庄九郎は、三河木綿に絞り染めを施した手ぬぐいを街道を行き交う旅人に土産物として売り始めます。これが有松絞りの始まりとなり今日まで有松の日常を支える伝統工芸として継承され、発展してきました
有松絞りの特徴は、その創造性の高さにあります。「絞り」と「染め」によって多様な模様を生み出すことができるため、100人いれば100通りの技法が生まれると言われています。それぞれの作り手が自分のスタイルに合わせた道具を使い、自由な発想で作品を作り上げることができます。この自由さが、有松絞りの面白さであり、魅力でもあります。そのため、技法は一つの伝統に縛られることなく、常に進化し続けています。
有松絞りは、単なる伝統工芸品ではありません。時代と共に変化し、進化を遂げてきました。毎年6月の第一土曜日には、有松絞りまつりが開催され、多くの人々が集まり、その魅力を楽しみます。絞染色久野染工場の四代目である久野剛資(くの・つよし)さんは、「絞りそのものはシンプル。400年続いているのは楽しいから」と語ります。染色体験は、その楽しさを多くの人々に伝えるための入り口となっています。
有松絞りは、誰もが自分の世界を持っているアーティストだということを教えてくれます。同じ技法を使っても、その人の感性が反映されるため、唯一無二の作品が生まれます。完成品を見せ合うことで、その人の個性に感覚的に触れることができ、会話も自然と生まれ、豊かな時間が流れます。偶然に発見される模様や新しい技法は、有松絞りの奥深さと面白さをさらに引き立てます。
有松絞りが400年もの間続いている理由は、楽しいから。実際に有松絞りを体験することでその趣深さや、自分の中から溢れる自由で創造的な部分を引き出してくれます。伝統を守りながらも、新しい挑戦を続けてきた有松絞り。これからも有松に住む人の日常を支え、多くの人を魅了していくことでしょう。
有松・鳴海絞会館
住所:〒458-0924 愛知県名古屋市緑区有松3008
アクセス:名鉄 有松駅から徒歩4分
HP:https://shibori-kaikan.com/
*営業時間や定休日についての詳細は、上記のリンク先にてご確認ください。