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2024.11.30

木村硝子店で、心が「好い」と思えるテーブルウェアに出会う

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木村硝子店で、心が「好い」と思えるテーブルウェアに出会う

ホテルリソルステイ秋葉原から数十分ほど歩いたところに「湯島」というエリアがあります。湯島には昔ながらの下町の街並みや、江戸時代から残る神社などが残っており、古きよき景色の片鱗が見える地域です。

湯島の新妻恋坂(しんつまこいざか)を超えた先の通りに現れるのは、「木村硝子店」が運営する直営店です。「木村硝子店」は「工場を持たないメーカー」として、さまざまな工場と提携しながら、硝子を使った質の高いテーブルウェアを丁寧に届けています。

硝子のなんでも屋からテーブルウェアの世界へ

「木村硝子店」は1910年創業。当初は試験管やビーカーから、グラスや尿瓶、自転車ランプの硝子部分まで幅広く制作する硝子問屋でした。

代表である木村武史(きむら・たけし)さんは、「木村硝子店」がコップやグラスといったテーブルウェアを中心に据えるようになるのは、第2次世界大戦後のことだと言います。

「1940年代、僕の父親と叔父が会社を分け、叔父は理化学系の硝子製品を販売し、父親はテーブルウェアを販売するようになりました。それから『木村硝子店』はテーブルウェア中心に手がけるようになったんです。」

その後、薄い硝子で作られる木村硝子店のグラスは料亭や一流の飲食店で使われるようになり、評判が広がっていきます。とあるバーテンダーの大会では、バーテンダーの8割以上が『木村硝子店』のグラスを使っていたという逸話も残っているほど。現在も、BARやレストランといったさまざまなジャンルの飲食店から根強い支持を得ています。

自分がいいと思うものをとことん追求する

木村硝子店のグラスの多くは木村さんがデザインを担当しています。木村さんがデザインをする上で大切にしていることは「自分がいいと思えるものを作れているかどうか」だそう。

「自分が若いときはうまく売ろうと思って、いろんなことを考え、変なものもたくさん作りました。だけど、そんなものは全然売れないことがわかった。そうして作り続けているうちに、僕自身の美意識から外れたものは売れないことがだんだんとわかってきたんです。自分の美意識がどういうものかうまく説明できないけれど、なんとなくしっくりくるという感覚に近いかな。」

自分にしっくりくる感覚。その感覚を追い求めて、木村さんは新しい商品をつくるとき、常に「本当に自分がいいと思っているのか?」と自分に問いかけながらグラスを製作しています。だから、1つのグラスに数年以上の時間をかけることもあるのだとか。

「美意識」と聞くと個人が持つ唯一の感覚のようにも聞こえます。しかし、木村さんは「人間が持つ美意識はそれほど変わらないんじゃないか」と思っているそうです。

「たとえば、僕は歌謡曲とクラシックが好きで、聞くと心が大きく動くんです。これらはジャンルも違うし、制作された背景も全くことなりますが、いい音楽であることは変わらない。つまり、いいものはジャンルといった肩書きを飛び越えて心が反応する。人間にはそんな本質的な美意識が共有されているんじゃないかと思っています。それはガラスデザインでも同じで、本当にいいものを見たら人は何かを感じるはず。僕はそういうものをつくりたいと思っています。」

「結局はここで感じるかどうかなんだよ」と胸をポンポンと叩きながら笑う木村さん。売れるものなのか。誰かの役に立つものなのか。そういうロジカルな視点を一旦保留し、自分の感覚をどんどん深く探求していく。「木村硝子店」のシンプルながら惹きつけられるグラスの根底には、自分を研ぎ澄ませながらつくる木村さんの感性がゆったりと流れています。

直営店は「木村硝子店」の価値をきちんと伝える場所

創業時から飲食店などへの卸販売がメインである「木村硝子店」。あえて個人向けの直営店をつくった目的は「『木村硝子店』を知ってもらうことだった」と木村さんは言います。

「僕はアパレルブランドがファッションショーをする理由は、多くの人にブランドの存在や価値を知ってもらうためだと思っています。木村硝子店の直営店も『ファッションショー』のようなイメージです。だから商品を売るためにお店をつくったのではなく、みなさんに『木村硝子店』の存在を知ってもらうことを目的として始めました。」

店内には、バーで使われるような足の長いステムグラスから、おうちで使えるコップまで幅広いテーブルウェアがモデルのように凛と佇んでいます。販売を担当している砂岡みずき(いさおか・みずき)さんは、「木村硝子店」の商品にはお客さんの想いに寄り添える幅広さがあると話します。

「『木村硝子店』のグラスには、いろんな人の想いをちゃんと汲み取れるところがあるなと感じています。お客さんのなかには繊細なデザインが好きな人もいれば、安心して使えることを優先したい人もいます。それぞれの想いを聞いたうえで提案すると、おおむね気に入ってもらえることが多いです。

いい意味で社長が使い方を縛らないデザインをしているからこそ、お客さんが自由に使える余白を感じてもらえている部分もあるのかもしれません。」

売る場所ではなく伝えるための場所である直営店には、他のお店では感じることのできない門戸が大きく開かれた風通しのよさがあります。

つくり手とつかい手の感性が出会うグラス

左から砂岡みずきさんと木村武史さん

左から砂岡みずきさんと木村武史さん

直営店がオープンして約8年。木村さんは「直営店には感性が似ている人が来てくれる」と振り返ります。

「正直、『木村硝子店』のような商品が好きな人は相当少ないと思っています。感覚でいうと100人に1人くらい。でも、ここに来てくれる人はすごく嬉しそうにグラスを買ってくれる。うちに来る人は感覚が似てるんだと思います。」

「だから自分がいいと思うグラスを使いたいように使ったらいいんです」と朗らかに締めくくる木村さん。使い方やニーズではなく、あくまでも感性が「いい」と思えるものをつくり続ける「木村硝子店」のスタンスは、知らないうちに使い手の感性も引き出しているように感じます。

なんだかよくわからないけれど、「好い」と思えるもの。「木村硝子店」は使い手の心に響くテーブルウェアを日々届けています。


木村硝子店・直営店
住所:〒113-0034  東京都文京区湯島3-10-4
HP:https://zizi.kimuraglass.jp/
SNS:https://www.instagram.com/kimuraglass/?hl=ja
※営業時間や定休日についての詳細は上記のリンク先にてご確認ください。