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2026.03.25

素焼き人形に命を吹き込む「博多人形会館 松月堂」の絵付け体験

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素焼き人形に命を吹き込む「博多人形会館 松月堂」の絵付け体験

店頭には素焼きの博多人形が、静かに並んでいます。まだ何も描かれていないその顔は、これから表情が生まれることを待っているようにも見えます。

福岡の中洲にある「博多人形会館 松月堂(しょうげつどう)」では、博多人形の絵付け体験を行うことができます。

博多人形とは、土の温かさと美しい表情が魅力の博多を代表する伝統工芸品のこと。1601(慶長6)年、藩主・黒田長政が福岡舞鶴城を築城した際に、瓦職人である3代目・正木宗七が人形を献上したのが「博多人形の起こり」であるとされ、現在では美人物、童物、能・歌舞伎物、武者物や季節物など、様々な種類の博多人形が作られています。

「最後に目を入れるときが、一番大事なんですよ。」

目の前に置かれた人形に筆を向けると、代表の比山善博(ひやまよしひろ)さんは優しく教えてくれました。

始まりはお客様とのご縁から

眺望の良い博多川沿いにある松月堂ビル

眺望の良い博多川沿いにある松月堂ビル

「博多人形会館松月堂」は、1947(昭和22)年に初代が菓子職人として店に務めていた頃、常連客の一人から「博多人形を取り扱ってみないか」と勧められたことがきっかけで創業するに至ったといいます。

当時は海外からの来訪者も多く、よく売れたそう。やがて菓子の商いから博多人形へと軸足を移し、現在の形になりました。

父親のあとを継いで30年近く。今も店頭に立ち続ける代表の善博さんは「お客様とのご縁から始まった店なのです。そこから作家さんとお客様を繋ぐ役割を大切に担ってきました。」と話します。

一堂に並ぶ表情豊かな人形たち

表情も作風も異なる博多人形が、一堂に並ぶ店内

表情も作風も異なる博多人形が、一堂に並ぶ店内

店内に並ぶ博多人形は、およそ600点以上。若手から名匠まで、50人近い作家の作品が一堂に並びます。同じ型から生まれたはずの人形でも、一つとして同じ表情のものはありません。

善博さん曰く「顔が一番難しいのです。ちょっとした違いで、全く違ったものになるから。」とのこと。最後の工程である「彩色(さいしょく)」と、表情を描き人形に魂を込める「面相(めんそう)」によって、その違いを生むのだそうです。

85坪ある広々とした店内

85坪ある広々とした店内

かつてはどの家庭にも一体は置かれ、様々な願いを託す存在となっていた博多人形。時代とともにその姿にも変化が見られ、大きな人形から小ぶりで飾りやすいものへと移り変わっています。

以前のように生活の場で触れることは少なくなっても、出産祝いや転勤祝い、季節の飾りとして、今も人々の節目に寄り添い続けています。

博多人形を支える土と手仕事

素焼きのやわらかな質感と、繊細な彩色が美しい美人物の博多人形

素焼きのやわらかな質感と、繊細な彩色が美しい美人物の博多人形

博多人形は素焼きの土人形で、布を使わず土だけで着物のやわらかさや動きを表現します。

義博さん曰く「人形の肌がきれいに仕上がるかどうかは、土で決まるんです。」とのこと。きめ細やかな土でなければ、表面はざらつき、滑らかな表情は生まれません。しかし近年、その土を作る職人が高齢のため廃業し、材料の調達が難しくなっているといいます。

豪快な力強さがある武者物の博多人形

豪快な力強さがある武者物の博多人形

作家の多くも70代、80代と高齢化が進み、後継者不足も続いているそう。また、よい作品を作るほど時間がかかり、生計が立てにくい現実もあるといいます。

「店頭に並ぶ博多人形の種類も随分と数が減りました。最後の1点になってしまったシリーズものも少なくないのです。」と少し寂しげな善博さん。

ただ、そうした厳しい状況下でも博多人形は受け継がれ、今も一体ずつ丁寧に作りあげられているのです。

筆先に伝わる緊張感を味わう「絵付け体験」

慣れない作業に工夫を凝らしながら彩色を進める

慣れない作業に工夫を凝らしながら彩色を進める

「博多人形館 松月堂」では、1名からできる絵付け体験を行っており、自分で選んだ素焼き人形にアクリル絵の具で自由に色を付けることができます。

まずは着物から着色。筆への力の入れ具合によっては色が濃く出てしまうことがあり、それだけで全体の印象を左右するため、慎重に筆を入れることが求められる作業です。

着色を終えたら、頬の色を入れ、髪の輪郭をなぞる工程へ。思い描く色彩にしようと色を重ねるものの、他の色と少し混ざるだけで印象が変わる難しさもあり、作り手がイメージした姿を表現することは、高度な技術の上に成り立っているのだと実感させられます。

慎重にねずみの目を描く。人だけでなく動物の人形も人気

慎重にねずみの目を描く。人だけでなく動物の人形も人気

最後に目を描き入れると、それまでの素焼き人形に表情が生まれ、ふっとこちらを見ているようにも感じられます。

「命が入るというのは、そういうことなんです。」と善博さん。

どんな色を重ね、どんな表情にするかはすべて自分次第。自分だけの一体を作ることを通して、博多人形の伝統に触れながら、作り手の視点を味わうことができるのが絵付け体験の魅力です。

真剣に取り組んだ作品に愛着もひとしお

真剣に取り組んだ作品に愛着もひとしお

体験からつながっていくもの

店内には複数の広い作業台が設置されている

店内には複数の広い作業台が設置されている

絵付け体験にかかる時間は、約1時間。 記念撮影をしてその場で持ち帰ることができることや、観光の合間に立ち寄りやすいのも嬉しいポイントです。

女性やカップル、家族連れの参加が多く、団体では40〜50名まで対応しています。海外から訪れる人も多く、思いがけない色使いに驚かされることもあるそうです。

楽しみながら思い出の品を仕上げる海外観光客の姿も

楽しみながら思い出の品を仕上げる海外観光客の姿も

「まず体験してみることで、伝統や工芸品を見る目が変わっていくんです。」

実際に手を動かしてみることで、完成品の繊細さがより深く理解できる。そこから初めて作家さんの作品に興味を持ち、博多人形を生活に迎え入れる方も少なくないといいます。

伝統のその先へ

(左)先代の頃から務める土屋弘子(つちやひろこ)さん(右)代表の比山 善博(ひやまよしひろ)さん

(左)先代の頃から務める土屋弘子(つちやひろこ)さん(右)代表の比山 善博(ひやまよしひろ)さん

「もっと作家さんの魅力も知ってもらえたらいいですね。」そう話すのは長年「松月堂」を支えてきた店員の土屋(つちや)さん。

「同じ材料や技術でも、作家によって作風は大きく異なります。表には出ない作家の想いや細かい工夫を感じるのも趣の一つです。」そう話す土屋さんは、博多人形の全盛期や移りゆく時代の流れを静かに見守ってきました。

荘重さを持つ能や歌舞伎物の博多人形 純真さを表現する能物の博多人形

荘重さを持つ能や歌舞伎物の博多人形 純真さを表現する能物の博多人形

「松月堂」が担っているのは、作品を販売する場であると同時に、作り手と使い手をつなぐ“入口”の役割でもあります。

ここに並ぶ人形たちに宿るのは、それぞれの作家が向き合ってきた時間そのもの。そうした時間に触れる機会を作ることも、この場所の大切な価値なのかもしれません。

実際に筆を取り、人形と向き合ったあとでは、同じ博多人形でも見え方が少し変わるといいます。 表情の奥にあるものにまで、ふと意識が向くようになるのでしょう。

現代の住まいにも馴染むモダンな博多人形も

現代の住まいにも馴染むモダンな博多人形も

旅の中で過ごす、ほんのひととき。その時間が、誰かの手仕事や文化を、これから先へとつないでいく。「博多人形会館 松月堂」は、やさしい循環が生まれる場所でした。


博多人形会館 松月堂
電話:092-291-4141
住所:福岡県福岡市博多区中洲5-1-22松月堂ビル1階
アクセス:ホテルリソルトリニティ博多より徒歩3分 
HP: https://shogetudo.jp/
*営業時間や定休日についての詳細は、上記のリンクからご確認ください。