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2024.03.26

沖縄の景色をつくる、壺屋焼窯元「育陶園」の挑戦。

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沖縄の景色をつくる、壺屋焼窯元「育陶園」の挑戦。

 

去る大戦で街の9割を消失した那覇市の中心に位置し、国際通りに近接する壺屋地区は、その戦火を免れた1割の内にあります。1682年、琉球王府が三箇所の窯業場(壺屋)を一箇所に統合し窯業振興を図って以来、今日まで陶器の一大生産地として全国に知られた地区となっています。また、国指定重要文化財の新垣家をはじめ、登り窯や石垣、力一(井戸)なども数多く残っており、往時の風景を今に伝えています。

 

「やちむん通り」は、その壺屋地区の中央に伸びる琉球石灰岩を敷き詰めた400mほどの通り。やちむんとは沖縄の言葉で焼物のこと、通りには今もここで作陶を行う窯元の直営店、ギャラリーショップなどが40店ほど軒を連ねています。

琉球石灰岩を敷き詰めた「やちむん通り」

 

かの琉球王朝の時代からこの地に根を下ろし、創業60年を超える壺屋焼窯元「育陶園(いくとうえん)」を訪ねました。

壺屋焼窯元「育陶園」本店(左)と新ブランドショップKamany(右)

壺屋地区が陶器の生産地として発展した理由を、代表の高江洲若菜さんはこう話してくれました。

「火を扱うため首里城からは遠からず近からず、小高い地形が登り窯に適していて土も採れ水も豊富、北部から薪を運ぶための港も近いという好条件がそろっていたんですね。」

高江洲家は1682年以前からこの地に根差して代々「荒焼(あらやち)」を作っていました。「荒焼」とは釉薬を使わない素焼きの陶器で、主に水瓶や泡盛などの貯蔵のための器として使われました。やがて水道の普及によって「荒焼」は一気に衰退していきます。

やちむんでは食べていけないと、四代目の子ども時代は漁村へ年季奉公したり、新天地を求めて大阪や満州にまで出て行きました。戦後、五代目高江洲育男さんが満州からもどり、「高江洲製陶所」を設立し「上焼(じょうやち)」を始めたのです。「上焼」は「荒焼」とは土も異なり釉薬が掛けられていて主に茶碗や湯飲みなどの食器類として使われます。その後1988年に「やちむん通り」に店を構えた時に「育陶園」となりました。

“人も陶器も、ここで育って大きくなって欲しい” との思いを込めた「育陶園」

 

壺屋焼の特長である「線彫り」

壺屋焼は沖縄の伝統的な赤土と釉薬、技法を使った焼物で、土の性質として薄造りに向かない上に、表面をコーティングするため厚みのある器が多いのが特徴です。育陶園が得意とする「線彫り」は、化粧した表面や色付きの釉薬をかけた表面を剥ぐことで模様を出します。下絵なしで掘ることが基本で、習得には最低でも8年~10年ほどかかるとのこと。

化粧した表面を下絵なしで彫る「線彫り」

壺屋地区では戦後復興で住宅が集中し、窯から出る煙が公害として問題となり1975年に登り窯が禁止されました。登り窯にとって代わったのがガス窯です。登り窯は窯の中で窯変が起こり、思わぬ変化から独特の風合いが出るのが特長ですが、安定した火の回りのおかげで、釉薬の予期せぬ窯変を抑え、線のラインをしっかりと引き出す事のできるガス窯は、この「線彫り」に適しています。

陶器作りが体験できる陶芸道場(上)と工房のガス窯(下)

“個”から“チーム”へ

2006年、「育陶園」は「有限会社育陶園」となり会社組織となりました。その理由を伺うと、

「継続したいという思いが一番です。個にたよると、そこで途絶えてしまう可能性があるんです。どうしたら続くのかということを考えた時に、それは“血”ではないのかもしれないと考えました。私たちの感覚を一番理解してくれる人であればそれは身内でなくとも構わない。また、法人にすることで職人さんたちも安心して働いてもらえるんです。」
と若菜さん。

「育陶園」代表取締役 高江洲若菜さん

先代からの反対などは無かったのでしょうか。

「父からの反対はありませんでした。継続のために良い方を選択することに対する反対はありませんでした。大事なことは継続です。」

「継続」という言葉を繰り返す代表の高江洲若菜さんの強い思いを感じました。


沖縄の景色を“つくる”

「私たちの会社のヴィジョンは“沖縄の景色をつくる”ことです。そしてそれは何百年間続いてきた壺屋という場所で、職人さん達がこれからもやちむんをつくり続けるということが大前提なんです。そのためには残されている石垣や古い木々、民家などをなるべく活用できるような事業展開をして行きたい。何もしないとそれらは無くなっていってしまう。」

現在「育陶園」では「やちむん通り」周辺に7つの拠点を構え、“時を味わう”をコンセプトにしたkamany、普段使いの軽やかな器を届けるguma guwa、新たな実験の場であるEtha、心地よい暮らしを提案するnan*ne、など新たなブランドを提案しています。

シンプルな器を提案するguma guwa

新たな実験の場 Etha

喫茶スペースを併設したnan*ne

「“守る”というよりは“つくる”といった方が正しいですね。土地の文化は古いまま止まるということはなく、私たちが手をかけていくということは色んな意味で “つくる” ことに繋がります。」

若菜さんの言葉には“人も陶器もここで育って大きくなってほしい”という「育陶
園」の願いが込められています。

先祖代々この壺屋で作陶を行ってきた高江洲家。継続ために様々な変化を遂げてきた「育陶園」は今7代目の高江洲尚平さんを陶主として若女将の朋美さん、代表の若菜さん、次世代を担う光さんを中心に約30名のチームで新たな沖縄の景色をつくるために挑んでいます。



有限会社育陶園
電話:098-866-1635
住所:〒902-0065 沖縄県那覇市壺屋1-22-33
アクセス:ゆいれーる牧志駅より徒歩11分
HP:https://www.ikutouen.com/
SNS:https://www.instagram.com/ikutouen/
*営業時間や定休日についての詳細は上記のリンク先にてご確認ください。