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2025.10.20

煎った大豆を粉にし、砂糖や水飴と練り上げる「洲濱(すはま)」は、素朴ながらも奥深い味わいを持つ和菓子。その歴史は鎌倉時代にまで遡りますが、当時は今のような形ではなく「豆飴(まめあめ)」と呼ばれ親しまれていたそうです。
時は下り、江戸時代に現在の形を考案したのが1657(明暦3)年創業の「御洲濱司 植村義次(おんすはまつかさ うえむらよしつぐ)」。「洲濱」という名は、砂浜に寄せて返す波の柔らかな曲線美を写し取ったその姿に由来するといわれています。
約360年にわたり京都で親しまれてきた「植村義次」でしたが、2016年に惜しまれつつも、その歴史に幕を下ろしました。
その後、長く愛された味と心を蘇らせたのが、京都御所のほど近くに佇む「すはま屋」です。ここでは、多くの人に愛されてきた「洲濱」を味わいながら、その歴史を繋いだ温かい物語を感じることができます。

店内に飾られている、「植村義次」で使用されていた外看板
「すはま屋」店主の芳野綾子(よしの りょうこ)さんは、茶道の家系に生まれ、曽祖父の代から「植村義次」とは家族ぐるみの付き合いがあったといいます。
毎年、新年には初釜(はつがま)と呼ばれる茶会が行われ、そこで出される「洲濱」は芳野さんにとって特別な存在だったそう。「切り分けたときに出る“端っこ”をこっそり食べていたんです。」と、小学生だった頃の思い出を笑いながら振り返ります。
先代の植村氏が病気で倒れ、毎年の初釜から「洲濱」が消えてしまったことに寂しさを感じていたときのこと。「初釜の分だけでも自分で作ってみてはどうか。」と、植村氏から芳野さんの父にかけられたその一言が、すべての始まりでした。

「植村義次」の味を受け継いだ、「すはま屋」店主の芳野さん
「あの味をもう一度食べたい。」という純粋な想いから、芳野さん親子は「洲濱」の作り方を教わることに。
しかし、シンプルな材料だからこそ、ごまかしが効かないのが「洲濱」の奥深さです。風味の要である大豆粉の煎り加減や、季節によって変わる生地の水分量の調整を行う場面で、芳野さんは何度も壁にぶつかります。
そんなとき、大きな支えとなったのが近所に住む先代の存在でした。芳野さんが作った「洲濱」を一口食べ、優しくそして的確に助言をくれる師の存在があったからこそ、試行錯誤を続けることができたといいます。
困難さも、奥深さも、すべてが「楽しい」。いつしか「洲濱」作りにすっかり魅了された芳野さんは、「もっと勉強させてほしい。」という想いを伝え、その熱意に応えるように先代は快くお店の場所を託してくれました。こうして2018年、「すはま屋」の暖簾が静かに掲げられたのです。

ドリンクとのペアリングが楽しめる「洲濱セット」
カフェスペースでは、お店の看板である「洲濱」と、こだわりの珈琲や紅茶、お抹茶から選べるドリンクを合わせた「洲濱セット」を味わうことができます。
お皿に並んだ「洲濱」の断面には、二色のコントラストが美しく際立ちます。この色合いは、緑の釉薬(ゆうやく)を使った焼き物「織部焼(おりべやき)」をイメージして先代の植村氏が考案したもの。
口に含むと、砂糖のシャリっとした歯触りに続き、生地が舌の温度でゆっくりとなめらかに溶けていきます。鼻に抜けるのは浅煎り大豆ならではの甘く香ばしい風味です。
その繊細な味わいに寄り添うのが、一杯のコーヒー。芳野さんが「洲濱」作りを教わっていた頃、試作した「洲濱」を届けると、植村氏はいつも温かいコーヒーを淹れて待っていてくれたのだそう。
師匠から「洲濱」とコーヒーの相性の良さを教えてもらった芳野さん。お店では、自身のコーヒー好きが高じて巡り合った、京都北山「サーカスコーヒー」の豆を使用しているそうで、すっきりとした苦味が「洲濱」の優しい甘みをそっと引き立てます。

2月の絵柄「椿」が描かれた「押物」
先代が生み出した芸術的な干菓子(ひがし)である「押物(おしもの)」もまた、芳野さんへと受け継がれています。
砂糖やもち米を粉にした寒梅粉(かんばいこ)などを押し固め、「洲濱」の生地で作ったという色鮮やかな絵柄が埋め込まれたこのお菓子。7月は「朝顔」、11月は「紅葉」など、月ごとに変わる絵柄が四季の移ろいを感じさせてくれます。
「植村義次」時代からのファンの声に応えて復活させた「押物」は、今やお店を代表する人気商品に。芳野さんが一つひとつ丁寧に手作業で仕上げる小さな芸術品は、贈り物としてもきっと喜ばれることでしょう。
ほかにも、そら豆をかたどった可愛らしい「春日の豆」は、「洲濱」とはまた違った軽やかな口あたりでお土産としても人気。旅の途中で出会った京菓子の美味しさを、気軽にお裾分けできる一品です。

お土産にぴったりな「春日の豆」

かつて一人の少女が愛した、忘れられない京菓子。その純粋な想いが、360年の歴史を繋ぐ一本の糸となりました。
この場所で「洲濱」を一口味わえば、その優しい甘みと共に、受け継がれてきた温かい心のバトンにそっと触れることができるでしょう。
お店を始めて8年目。「まだまだ勉強の途中なんです。」と、芳野さんは柔らかな笑顔で語ります。長い歳月を「洲濱」一筋に捧げた師の大きな背中を見つめ、一日一日、真摯にその味と向き合うー。そのひたむきな眼差しの中に、一軒の老舗が守り続けた魂は確かに息づいています。
すはま屋
電話:075-744-0593
住所:京都府京都市中京区丸太町通烏丸西入常真横町193
アクセス:地下鉄烏丸線「丸太町駅」より徒歩1分
SNS:https://x.com/suhamaya193
*「洲濱」は2日前、「押物」は4日前までのご予約で購入可能です。
*営業時間や定休日についての詳細は、上記のリンク先からご確認ください。