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2026.06.20

京都で拓いた手打ちそばの歴史。「有喜屋 先斗町本店」で味わう職人の情熱と食文化

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京都で拓いた手打ちそばの歴史。「有喜屋 先斗町本店」で味わう職人の情熱と食文化

ホテルリソル京都 河原町三条を出発し、風情ある先斗町(ぽんとちょう)の石畳を歩くことわずか2分。細い路地にひっそりと佇む老舗の暖簾が見えます。1929(昭和4)年に創業した「有喜屋(うきや)先斗町本店」は、観光客と地元の人々が入り交じり、心地よい活気と落ち着きが同居するそば屋です。

京都の麺文化といえば、まろやかな出汁の「京うどん」を思い浮かべる人が多いかもしれません。事実、かつての京都ではうどんが主流で、機械打ちのそばがわずかに存在する程度。手打ちそばを提供する店はほとんどなかったそうです。

「有喜屋」は、そんな「うどんの街」であえて本格的な手打ちそばを掲げ、現在に至るまでその魅力を伝え続けてきました。

逆境から始まった「京都の手打ちそば」

「有喜屋」3代目店主の三嶋吉晴(みしま よしはる)さんが、東京で技術を身につけお店に手打ちそばを出し始めた当初、馴染みのないお客さんからは「麺が硬い」と敬遠されることもあったのだそう。

それでも「手打ちそばの美味しさを知ってほしい。」という一心で、最初はサービスとして無料で提供しながら、少しずつ京都の地に手打ちそばの文化を根付かせていきました。

三嶋さんはそば文化の普及に尽力したとして黄綬褒章、藍綬褒章を受章

三嶋さんはそば文化の普及に尽力したとして黄綬褒章、藍綬褒章を受章

そんな「有喜屋」で、20年以上職人としてそばを打ち続けているのが、先斗町本店の店長を務める伊藤義右(いとう よしすけ)さん。元々は量販店で販売の仕事に就いていましたが、30歳を目前にして心機一転、そばの世界へ飛び込みました。

「誰かが作ったものを売るのではなく、自分の手で作ったものに対するお客様の反応を直接見たかったんです。」と、職人への憧れを振り返ります。

「有喜屋」の門を叩き、厳しい修行の日々が始まりました。仕事が終わったあとの夜遅く、先輩から指導を受けながら手打ちの練習を重ねる毎日。

「『職人になるための修行』として飛び込んだので、厳しい指導を受けても食らいつくことができました。一生の技術を身につけるという覚悟があったからこそ、腹のくくり方が違ったのだと思います。」

「先斗町本店」で店長を務める、そば職人の伊藤さん

「先斗町本店」で店長を務める、そば職人の伊藤さん

伊藤さんの原動力となったのは、「有喜屋」で修行を始めてすぐのころ、初めて十割蕎麦を食べたときの強烈な体験でした。

「風味の強さに圧倒されたのを覚えています。何もつけずにそのまま食べても『そばってこんなに味がするんだ』と、ただただ驚きました。」

自身が味わった感動を、今度は自分の手でお客様に届けたい。その想いが、今も伊藤さんを厨房へと向かわせています。

京都の恵みと手仕事が紡ぐ「十割天ざる」

「先斗町本店」で一番の人気を誇るのが、揚げたての天ぷらとともに十割蕎麦を味わう「十割天ざる」です。

「まずは塩だけでそばを召し上がってみてください。」と伊藤さん。おすすめ通りに塩をひとつまみふりかけて口に運ぶと、そば本来のふくよかな香りがふわっと鼻から抜けていきます。この力強い風味の秘密は、素材への並々ならぬこだわりにあります。

「有喜屋」の十割蕎麦に使用されているのは、栽培量が少ない京都産のそば粉。その貴重なそば粉を「有喜屋専用」に特注で製粉してもらい、風味が落ちないように保管方法にも工夫を重ねているそう。

そうすることで、収穫したての「新そば」のような豊かな香りを1年中いつでも味わえるのです。

1本1本が細く、つやのある十割蕎麦

1本1本が細く、つやのある十割蕎麦

また、十割蕎麦といえば太くて切れやすく、少しざらつきのあるそばを想像しがちですが、「有喜屋」の十割蕎麦は細さ約1.2ミリ。つるりと心地よくすすれ、噛むほどにもちもちとした食感を生み出します。

「そばを殻ごと挽くのではなく中の実だけを細かく挽いているので、細くてもちぎれにくく、滑らかな喉越しになるんです」。

しかし、これほどまでに繊細なそばを毎日同じクオリティで打ち続けるのは、決して容易なことではありません。

「同じそば粉でも、日によって乾燥していたり水が浸透しにくかったりと、状態は毎日変わるので、長年鍛えた感覚を頼りに水の量や温度を微調整します。日々、新しい発見の連続ですね。」と話す伊藤さん。ベテランになってもそばとの真剣勝負は続いています。

海老、大葉、海苔、青味の天ぷら

海老、大葉、海苔、青味の天ぷら

薬味のネギやわさびはつゆに溶かすのではなく、そばに直接乗せて味わうのが、伊藤さんが教えてくれたツウな楽しみ方。そうすることで薬味の凛とした香りがはっきりと際立ち、それに負けないそばの濃い風味が、口の中で綺麗に絡み合います。

サクサクと音を立てる天ぷらと、ツルツルと喉を滑るそばの組み合わせはどこまでも軽やか。気づけばあっという間にせいろが空になり、心地よい美味しさの余韻が残ります。

一杯のそばに込められた「文化」を味わう

「そばは料理であると同時に、日本の伝統的な食文化そのものです。手打ちそばという文化を絶やさず、次世代へ伝えていくことこそが、私たち職人の使命だと思っています。」

伊藤さんが語ったその言葉には、老舗の看板を背負う覚悟と誇りが滲んでいました。

観光地の喧騒から少しだけ離れ、先斗町の静かな空間で一杯のそばを味わう。そのひとときは、ただお腹を満たすだけでなく、職人が腹をくくって守り続ける「日本の文化」に触れる特別な時間になることでしょう。


有喜屋 先斗町本店
電話:075-221-2978
住所:京都府京都市中京区木屋町通三条下ル石屋町125  
アクセス:京阪電鉄「三条駅」から徒歩6分   
HP:https://www.ukiya.co.jp/
SNS:https://www.instagram.com/ukiya_honten/
*営業時間や定休日についての詳細は、上記のリンク先からご確認ください。