2024.09.15
和菓子の決め手とも言える「あんこ」。代表的なものといえば、小豆を使った赤あん、白いんげんを使った白あん、エンドウ豆を使ったうぐいすあんなどがありますが、製法によりこしあん・つぶあんに分かれます。さらに季節に合わせたあんも存在するため、日本には実に多種多様なあんこが存在します。
宝来町に本店がある「千秋庵総本家」は、あんこにこだわり続けるお菓子を道南エリアのみで販売する、函館の老舗の和菓子屋。市内でも知らない人はいない名店です。
「千秋庵総本家」は1860年に、秋田藩士だった初代 佐々木吉兵衛氏が函館でお菓子を売ったことが始まりです。日米和親条約により函館が開港され、少しずつ西洋文化が入ってきた頃で、当時は昆布を使用した羊羹や、蜜漬けのふきなどを販売していたそう。
明治に入ると、和菓子だけでなく、西洋のアクセントも取り入れたお菓子も販売。そのお菓子の美味しさから多くの職人が修行に訪れ、「千秋庵総本家」は暖簾分けを行いました。そうして、道内各地の名前を冠した千秋庵が生まれ、現在も札幌や帯広にその技術が伝えられています。
歴史を重ねる中で、さまざまな商品が開発されていった「千秋庵総本家」。創業当時から手ねりにこだわり、職人が一つ一つ丁寧に仕上げていきます。そして驚くことに、全ての製品で糖度や硬さが異なるあんこを使っていると言い、その数なんと50種類以上。
商品部の堀田泰見(ほりた・ひろみ)さんに詳しく伺ったところ、「商品の仕上がりの味、製造工程、季節…そういった条件を全て考慮し、完成品がベストな状態になるように考えたあんこを『あんこ場』と呼ばれる場所で職人が3日ほどかけて製造しています」と教えてくださいました。
例えば、看板商品である「どらやき」は、少し粘度を持たせ、生地との一体感と小豆の美味しさを楽しめるつぶあんに。お土産品として人気の「函館散歩」は、カステラ生地の甘さや焼き上げ時間を考慮して、少し水分を含んだこしあんに。飽きが来ないお菓子の美味しさを追求し、こだわり続けたからこそ、函館の人たちに長く愛されているのです。
「千秋庵総本家」は2024年5月、建物の老朽化に伴う店舗のリニューアルとともに、歴史ある併設の蔵を改装し、イートインスペースを設けました。「かねてより観光客の方のみならず、地元の方々からも『イートインスペースが欲しい』というお声をいただいていた」そうで、函館西部地区を彷彿とするレンガをイメージした色使いと開放的なデザインが落ち着きのある空間を演出しています。
また、スペース内では店内で販売されている商品の一部をお茶やコーヒーとともにいただくことができます。茶葉は丸山園茶舗と三和園より、コーヒー豆は十字屋珈琲のものを使用しており、いずれも函館の老舗店舗。お菓子とドリンク、それらを歴史ある建物の中でいただけば、全身で古き良き函館を感じることができるでしょう。
また、店舗リニューアルと同じタイミングで、新しい発想を取り入れたお菓子が販売されました。ケーキのような「スフレどらやき ふくる」や、箱館醸蔵が作る「郷宝」の酒粕と純米吟醸を使用したしっとり感と華やかな香りが楽しめる「郷宝カステラ」は、本店限定で販売しています。
さらに、同タイミングで発表された新ブランド「an‘d an(あんど、餡)」は、“自家製餡と洋素材の融合”がコンセプト。これまでの「千秋庵総本家」にはなかったジャンルで、ネオ和菓子と呼ばれるカテゴリにあたります。「和と洋のエッセンスをミックスさせ、お茶だけでなくコーヒーやお酒にも合うお菓子を開発した」という、「千秋庵総本家」の新しい挑戦です。
「千秋庵総本家は手間暇かけた丁寧なあんこ作りを行なっています。長く函館を中心とした道南の皆様にご贔屓にしていただいてきましたが、和菓子はどうしてもご年配の方が買うというイメージが強いと思います。これからは若い世代の方やご家族で楽しんでいただけるような商品開発や店舗展開も行なっていきたいですね」と話す堀田さん。創業から160年を超えてもなお大切なものは守り、そして変革を続ける老舗の取り組みからは、あんこの可能性が垣間見えるようでした。
千秋庵総本家 本店
電話:0138-23-5131
住所:函館市宝来町9-9
アクセス:函館市電「宝来町」徒歩1分
HP:https://sensyuansohonke.co.jp/
SNS:https://www.instagram.com/sensyuansohonke/
*営業時間や定休日についての詳細は、上記のリンク先にてご確認ください